人間力とは利他の精神。仕事では「相手の期待値を超えようとする力」

「人間力」という言葉は、耳にする回数が多い言葉の割には、定義が曖昧ではっきりせず分かりにくいと思っている方も多いのではないでしょうか。

人間力とは「利他の精神」です。つまり、人間力の高い人とは利他の精神に溢れる人であり、人間力の低い人は利己的な言動の多い人だということです。そう捉えると実に多くのことがすっきりして見えるはずです。

人間力とは「力」とは書いてあるものの、他のスキルと違って定量的に高低を語られるようなものではなく、あくまでも「他人に対する姿勢」を表すものなのです。相手が「他人」である以上、利他なのか利己なのかで区別するのがもっともすっきりするということです。

ただし、単に利他の精神と言ってもうんと幅広な話になってしまいますので、今回は多くの読者が必要とするであろうという意味で「ビジネスシーンにおける人間力」にフォーカスして、その発想法と具体的な高め方まで踏み込んで行こうと思います。

内閣府の諮問機関は人間力を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義しました。概ね当たっているように感じるものの曖昧だし、それではどうやって伸ばしたらよいか分からないし、伸ばすのが大変そうだし、天賦の才と諦めてしまう人の方が多いでしょう。

これから私が書く内容はそれほど網羅的でも総合的でもなく、人としての格が上がるような話でもありません。しかし、こうやれば「人間力の高い人だ」と言われる可能性が高まるでしょう、という話です。

1.ビジネスシーンにおける人間力とは「相手の期待値を上回ろうとする力」

人間力を「利他の精神」だとするならば、ビジネスシーンにおける人間力とは何になるでしょうか。それは「相手の期待値を上回ろうとする力」です。

ここで留意して頂きたいのは、人間力というものは結果や能力などにより定量的に表せるものではなく、プロセスやその際の姿勢などに依拠して高低や多寡を語られることが多いということです。もちろん、結果が伴っているに越したことはありませんが、上回ろうとしていることが相手に伝わるだけで、(仮に結果が伴わなくとも)充分に「人間力のある人」だと言われます。

あなたがビジネスシーンで他人を見ていて「この人、人間力あるなあ」と感じる時とはどのような時でしょうか。だいたいこんな感じかなと思っていた「事前の期待値」(通常の期待値)を何らかの点で、上回る言動をしてくれている人を見た時だと思います。

11.人間力は一般的なスキルではない

人間力は「力」という字がついているために「スキル」だと思われがちですが、定義からも分かるように数値化できるような一般的なスキルではありません。

どちらかと言うと、スキルよりも仕事や他人に対する「姿勢」に近いです。スキルだとすると、手に入りにくいし、持ってない等という話になりますが、姿勢だと思えば今日からでも高めていけるということです。

12.人間力が高まると相手の「許容範囲」が広がる

人間力、すなわち「相手の期待値を上回ろうとする力」を高めると(=つまり姿勢がよくなると)、まず相手の許容範囲が変わります。

出来る限りの努力をしてあなたの役に立ちたいという、こちらの意思が相手に伝わりますので、その結果が仮に伴わなくても「よくやってくれた。ありがとう」と言われるようになります。

つまり結果が出ればなおのこと、結果が出なくても感謝されるという魔法のような状態となるのが「人間力」(=相手の期待値を上回ろうとする力)の大きな効能のひとつです。

13.期待値と成果の関係は感謝・感動・満足・不満・怒りの5段階

事前の期待値どおりの成果が得られた時、相手はその成果に対して「満足」を覚えます。期待値を上回った成果を出せば「感動」してもらえますし、大幅に超越すると「感謝(感激)」されます。一方で、期待値に及ばないとき相手は「不満」を感じ、大幅に下回ると「怒り」すら覚える展開になります。

相手の期待値に対する、この成果の5段階を意識しないで仕事をするのは大変もったいない話です。

これまで数千人のビジネスパーソンを見てきた経験から言えば、9割以上くらいの人が相手の期待値どおりの仕事(=満足)を最初から目指してしまう傾向です。

目指しているところが「満足」なのですから、上手く行って満足。ちょっと下手をすると、すぐに不満や怒りに転化します。1年間の成果を振り返ってみて、満足・不満・怒りの組み合わせになってしまうことが、やる前から決まってしまっている感じです。これはいけません。

最初に感謝・感動を目指してさえいれば、結果は感謝・感動・満足の組みあわせになります。たまに失敗して不満となっても、前述のとおり相手の許容範囲が広がっていますので不満とならずに許容すらされます。相手の期待値を少しでも上回ろうとする姿勢こそが自身のブランディングとなり、人間力のある人と呼ばれる第一歩なのです。

2.人間力を高めると「実績」までもが変わり始める

相手の期待値を上回ろうとする姿勢が良くなると、姿勢だけでなく実績までついてくるようになります。それが「人間力」の凄いところです。

人間力を高めていくと、実力以上の実績が多数出てくるようになります。

21.ビジネスパーソンの実績は依頼される仕事で決まる

ビジネスパーソンの実績というのは、先天的に持ったポテンシャルの能力指数や、後天的に向上させたスキルなども影響するにはしますが、もっとも直結して影響するのは「何を依頼されたか」です。

依頼される仕事の内容を良くしていく、という視点を持たないと能力以上の実績は出せません。分かりやすい表現で言えば、出世しません。

大きなプロジェクトや、やりがいのある仕事を任された人だけが、経験者となり実績のある人になるのであって、ポテンシャルの能力の多寡よりも、こちらの方が実績を左右するのです。

22.実績としてカウントされるような仕事は本当に少ない

やっただけでも実績の一つに数えられそうなやりがいのある仕事は、組織で働く人の数より圧倒的に少ないものです。

ひとつのやりがいのある仕事に、10倍から100倍くらいの誰がやっても同じルーティンのような作業が紐づいて発生するので、その存在確率は当然です。

つまり世の中の組織というのは、極めて数の少ない「やりがいのある仕事」とその100倍もある「やりがいのない仕事」が混在した状態に常になっているということです。

2-3.人間力を高めると「やりがいのある仕事」が回ってくるようになる

「やりがいのある仕事」は決して能力順に与えられている訳ではありません。能力の高い人よりも、組織や職務に対する姿勢の良い人に優先的に与えられる傾向にあります。

高度な専門職ならまだしも、特にロースキルなフェーズであるうちはその傾向が顕著です。ロースキルである時点で、それほどの能力差も実績差もない中で比べられることになりますから、数少ない「やりがいのある仕事」を誰に渡すかを上司が考えるとき、上司である自分の期待値を上回って成果を出そうと頑張ってくれる人(つまり「人間力の高い人」)に渡してみるのは自明の理です。

2-4.やりがいのある仕事が次のやりがいのある仕事を呼びこむ

やりがいのある仕事をもらえた人は、やりがいのない人よりも必然的に実績が出やすくなります。

依頼されている仕事そのものの質が違うのですから当然です。そして、そのやりがいのある仕事をやる際にも、また相手の期待値を少しでも超えられるように「人間力が高い」仕事ぶりを徹底すれば、次はもっとやりがいのある仕事が来るようになります。

それを繰り返していくと、人間力も実績もある人にやりがいのない仕事を頼むはもったいない、もっとやりがいのある仕事を選んで渡そうという流れまで始まり、どんどんやりがいのある仕事が来るようになります。そうやって実績を積んでいくうちに、いつの間にか「仕事のできる人」とも言われるようになっていくのです。これで人間力も高く、かつ仕事のできる人という自分のブランディングを手に入れるのです。

【1章2章のまとめ】

  • 人間力とは「相手の期待値を上回ろうとする力」であり、これを高めないといけない。
  • 人間力が高まると、他人より少しだけやりがいのある仕事が渡されるようになる。
  • その仕事をまた期待値を超えるように努力しながらやると実績がつく
  • 人間力が高めな上に実績までつくので、ますますやりがいのある仕事が依頼されるようになる。
  • 毎回渡された仕事を一生懸命に、相手の期待値を上回るようにやっていると実績がどんどん増える。
  • 最終的には人間力も高く、実績もある「仕事のできる人」と呼ばれるようなる。

    3.どうやって人間力を高め、やりがいのある仕事をもらうのか。

    人間力を高めると何が良いのか、その構造は理解ができたものの、最初の「少しやりがいのある仕事」をどうやってもらえるようになるのか、つまりどうやって相手の期待値を超えるような仕事をするのかという問題が今回の一番のポイントになるかと思います。そこを分解していきましょう。

    日本人は一般的に相手の期待値について考える習慣はあります。相手の期待値を大幅に下回るものを出したり、納期を無視したりする論外な人は少ない印象です。しかし、残念なのは超えてみようとする意識があまりにも低い。ですから徹底して期待値を超える習慣をつけていくことが肝要です。

    とは言え、慣れないうちはアイディアも出にくいものですので、汎用的な思考ポイントを幾つか並べておきます。なお、ここに書かれているのは「少しだけ」期待値を超える際に有効なキーワードです。

    期待値を超えるために有効なキーワード

    • 納期を短縮する(納期を書いてみる)
    • 付録をつける(何か付けるものがあるなら何かを考えてみる)
    • データ化する(データになっていないものは何でもデータ化する)
    • 分析をつける(データ化して初めて浮かびあがる事実をまとめる)
    • 比較する(前回比、前月比、前年比、同業他社比などを見比べる)
    • 利便性を上げる(依頼主が自分のアウトプットをどう使うかを考える)
    • 次回を楽にする仕組み(次回のために今やった方が効率的なことはやる)
    • 他の仕事に転用できる仕組み(他の仕事に汎用的に転用できないか考える)

      31.期待値を超える仕事の例

      ひとつくらい例を出しておきましょう。会議の内容をPCに打ちこんで議事録を配信するという仕事。誰がやっても大して変わり映えのないルーティンワークの代表例です。

      私は今まで、多くの企業で役員や管理職を歴任しましたので「部下が作成する議事録」を見る機会が圧倒的に多い人生でした。これまでの半生で最も私の期待値を超えてくれた議事録は、あるメガベンチャーで5部門ほど統括していた時のマネージャー会議の議事録です。

      新卒3年目くらいの一般職の女性を議事録係で会議に参加させていたのですが、彼女から当日夜に送られてきた議事録はなかなかイケてました。ワードではなくエクセルで作成されており、発言者別、関わる部署別にソートが掛かるようになっており、2シート目には簡易なtodoリストもついており、更に3シート目には面白いものがついていました。

      次回の会議の前日に読まれる方へと題したシートで、今回の会議で私が指摘もしくは叱責した部分だけが抜き出されており、今回は大丈夫でしょうか?と注意喚起までしてあります。読んだ瞬間、自席で笑いそうになりました。

      翌日、本人を呼び出してみました。

      常務:「面白い議事録だったね。どうした?」

      社員:「頑張ってみました。常務は覚えておられないでしょうけど、2ヵ月前の会議で常務が『議事録なんて誰が書いても似たようなもんだからな』と何かの会話の流れでおっしゃったので、ならば私が!と思ってやってみました」

      常務:「そんなこと言ったかい、それは失礼したね。でも、よくやってみてくれた。良い議事録だったよ。けっこう時間かかったかい?」

      社員:「案は考えてあって、最初からそういう議事録を取る意識で出席していたので、実際に掛かった時間は通常の議事録プラス15分くらいです」

      常務:「それはいいね。素晴らしい。あと、あの3シート目…」

      社員:「あれは…常務の課題ですね。ご出席のマネージャーの方々、議事録を見るのは次の会議の前日や当日、ひどい方は会議の30分前に慌てて、って感じですよ。もう一度送ってくれというご依頼も多いので間違いないです」

      ざっと、こんな感じでした。

      それ以降、私が彼女に議事録を取るよりももう少しクリエイティブな仕事を渡し始めたのは言うまでもありません。これは少しエッジの効いた例ではありましたが、最初からそこを目指せば誰にでも出来るレベルの話です。要は目指すか目指さないか、そして習慣化しているか否かです。

      32.相手の期待値を超えようと考える習慣をつける

      どんな仕事でも相手の期待値はおよそ分かっているので、まずはそれを文字に起こす習慣をつけましょう。

      依頼された瞬間に期待値がすぐに分かってしまうような簡単な仕事でも、ササっと相手の期待値を書いてみることをオススメします。完全に習慣化して、脳内で即座に答えが出るようになれば止めても良いですが当面は書き続けましょう。

      文字で書くことの効能として、脳内でぼんやりと期待値を測っていたときと違い、仕事を始める前に思い違いや不明点などに気づくこともできます。そして、これを実践し始めると暫くして気づくのですが、多くの仕事の場合、相手の期待値は「納期を守ってミスなく」程度の案外低い位置にあることも分かってきます。だから、期待値を超えるのはそれほど難しいことではないのです。

      仕事を依頼された瞬間に「相手の期待値を書く」ためのシートを大量に用意します。自分なりのものを創ってみるのがお薦めですが、創るのが面倒くさいという方のためにテンプレートと使用例もつけておきます。

      【初級-記入例】議事録_ENGINEER.CLUB

      思考のテンプレート初級編_ENGINEER.CLUB

      4.期待値を大幅に超える新しいミッションを創造してみよう

      相手の期待値を超える習慣が少しついてきたら、もっと大幅に期待値を超えられることがないかを考えましょう。

      微改善と違いこの領域になると、もはや全く違った新しいミッションを生み出す行為に近くなってきます。微改善は全てのルーティンワークにおいて出来ますが、大幅に超える新ミッションが生み出せるか否かは、与えられている仕事の種類や性質にもよります。

      それを見つけるためにも、終業後や帰宅後などに遊び気分で探してみると良いかも知れません。その際のキーワードを列記してみましょう。

      期待値を大幅に超えるために有効なキーワード

      • その仕事が構造的(慢性的)に抱える問題点を解決できないか考える
      • 会社や部署の現在の重要課題に好影響を与えられないか考える
      • 会社の6つの目的に貢献できないか考える

       

      <会社の6つの目的とは>

      株式会社である以上、日本を代表する大企業から出来たばかりのベンチャーまで、およそ全ての会社において以下の6つのことを実現するために従業員は雇われています。それらに直接的に貢献できないか考えるのです。

      • 理念の実現、浸透
      • 利益の増加(売上の増加、原価の低減、経費の低減)
      • 顧客満足度の向上
      • 従業員満足度の向上
      • 人材の育成
      • 繰り返せる仕組みづくり

      41.大幅に期待値を超える新ミッションの例

      ここでも例をひとつ取り上げてましょう。デジタル化やIT化が進んだ現在では同様の仕事も減りましたが、今でもなお存在するルーティンのひとつが「紙で来た請求書の処理」です。

      ある外食チェーンの本社には毎月毎月、全店の電話料金の請求書が紙で来ていました。その数、500枚ほど。これを月初の数日でデータとして打ちこんで一覧にし、経理へ支払いデータとして送付するというルーティンがありました。膨大な負荷でありながら、誰がやっても結果は同じで、かつ納期の厳しいルーティンです。

      そもそも納期が厳しいので、紙からデータを大量に起こすことだけが目的になり、目標は納期を守ってミスなくやること。それが代々の担当者を経て、延々と繰り返されてきています。この仕事を納期通りに間に合わせて経理に出して終わりでは、もったいないです。

      紙でなくデータで来るように交渉したり、データから見る週別・月別・都道府県別などの分析データを作成してみたり、そもそも500本も電話を使っているのですから現在利用中の電話会社以外にもかけあって大幅にコストダウンをしたりすれば良いのです。

      これを時間外でやる。もしくは経理提出後の比較的ゆっくりした日の日中でやる。データを入力してくれと言っただけなのに、ここまでやれるようになれば相手の期待値を大幅に超えることができ、ブランディングは加速していくという訳です

      4-2.新ミッションには納期がない

      微改善はだいたい元々の納期内でやらねばなりませんが、新ミッションはこちらが自発的に生み出したミッションですので納期はありません。

      自分の空き時間を使って毎日コツコツやっていけば良いのです。納期を自分で決められる上に、出来あがったら絶対に評価され、自分のブランディングも加速する。いいことばかりです。3章で解説した微改善だけでも十分に「人間力のある人」と言われると思いますが、新ミッションを生み出し始めると一気に加速します。

      ただし、これは自分がいま所属している組織の環境によっては、やってみても良いかどうかを先に打診しなければ勝手にやると怒られる風土もありますので、適宜判断が必要です。

      新ミッションを生み出すことも習慣化することが大事です。毎日、毎週、時間を決めて新ミッションを生み出せないかチャレンジしてみましょう。ここでもテンプレートと使用例をつけておきます。

      【中級-記入例】電話料金_ENGINEER.CLUB

      思考のテンプレート中級編_ENGINEER.CLUB

      5.早ければ1か月遅くとも3か月で「人間力のある人」と言われ始める

      現在おかれている環境や個人のブランディングの高低によって、成果が出るまでに時間差は当然あります。

      しかし、相手の期待値を大なり小なり必ず超える!と決めて仕事をしはじめると、早くて1カ月、遅くとも3か月くらいで周囲からの見られ方が変わってくるはずです。なぜそう言い切れるとか言うと、これも冒頭で少し触れましたが、成果が完全に伴わずとも「期待値を上回ろうとする姿勢」があるだけで、その姿勢をもって「人間力が高い」と人は評するからです。

      人間力が高いと明確に言われることもあれば、違う表現のこともあるでしょうが、いずれにせよ、周囲からの見られ方は今までより遥かに向上し、依頼される仕事もじわじわと微妙に違ってくるはずです。

      あからさまにやりがいのある大きな仕事が回ってくるまでには、まだ一定の期間を要するかと思いますが、少なくともあなたは以前よりも前向きに、楽しく従事できている可能性が高いです。それに満足されることなく、たゆまぬ努力を続け、いつでも常に相手の期待値を上回ろうとする姿勢が習慣となった「人間力の高い」ビジネスパーソンになっていってください。

      6.さいごに

      依頼される仕事が変われば実績も自ずと変わります。実績が出てくれば、自分のアイディアや持っているスキルの活きる幅も変わります。見える景色が違ってくるはずです。ぜひ、一人でも多くの方が、自分のもてるポテンシャルを大いに発揮しながら仕事を楽しんで、同僚や組織や会社や、惹いては社会全体に貢献されることを願っております。