なぜ目標設定が大切なのか?エンジニアが見逃しがちな2つの着眼点

エンジニアの目標設定において、重要でありながらついつい忘れてしまいがちなのが「キャリアビジョン」と「スタンス」です。この2つの要素は、エンジニアとしての人生を充実させるのにとても重要です。ところが目標設定というものは日々問われるものではないので、個人で日常に落とし込むのが難しい側面があります。しかも必要な要素を見落としたまま目標を立ててしまっているケースが、かなりあるのです。

ここでは「次回の目標設定をどうしよう?」と悩んでいるエンジニアの方に、効率的で完成度の高い目標設定のつくり方を伝授したいと思います。エンジニアの方がついついやってしまいがちなミスなども具体的事例を交えて、解説します。目標設定の作成に悩んでいたエンジニアの方は、是非活用して頂ければ幸いです!

1.目標設定の重要性

一般的なビジネスパーソンにとって目標設定は、成功への道標であり、モチベーションの根源でもあります。例えば、「何となくやりたいことだけをやっていたら、5年後に“なりたい自分”になれました」という流れがあればそれは一番幸せですが、それは限りなくレアケースです。やはり計画があってこその自己実現なのであり、そもそも人間は、目指したところにしか行き着かないものです。目指しても行き着かないことはありますが、まずは目指さないことにはなりたい自分にはなれません。

また多くの会社は、目標設定をマネジメントに活用しています。上司との会話、部下との会話などにおいて、「まだ目標が定まっていません」といった個人ブランディングは絶対避けるべきです。目標設定が苦手なビジネスパーソンは多数いますが、特にエンジニアには苦手な人が多い傾向があります。2人に1人が目標設定の立て方に悩んでいると言っても、過言ではありません。

では、なぜエンジニアは自分の目標設定を立てることに悩んでしまうのでしょうか?その背景と課題、具体的な解決策について見ていきましょう!

1−1.エンジニアが陥りがちな目標設定のパターン

私は今まで、ある時は同僚・部下として、またある時は面接官として1000人以上のエンジニアと話をしてきました。その経験から感じるのは、エンジニアの皆さんは目標設定があまり上手ではないということです。あなたの目標は以下のような例に当てはまっていませんか?

  • 現在参画しているプロジェクトで必要な知識や資格の習得
  • プロジェクト内での自分の役割を、納期を守ってミスなくやる
  • プロジェクトに必須なのに整っていないツールやドキュメントを作成する
  • プロジェクトにおける人間関係を潤滑にするよう努める

ここに列記されたものは、ご覧の通り、現在参画中のプロジェクトの枠内のみで設定されています。エンジニアという職種の人々は「現場至上主義」が良くも悪くも徹底しているので、その枠の中でしか目標を考えられなくなる傾向が非常に強いです。しかし、プロジェクト内のことのみにフォーカスしていると自分の夢はかないません。個々のプロジェクトを点とすると、自己成長は線です。つまり、エンジニアとして同じ業務を遂行するにしても、そのプロジェクトの先の自分の将来像をイメージしているのか否かで、モチベーションもスキルの吸収度合いも大きく変わってくるのです。

たまたまアサインされたプロジェクトで必要とされる知識や技術を身につけているだけでは、優秀なビジネスパーソンにはなれません。目標設定とは、“給料をもらいながら、したたかに自己成長を実現する人生成功のシナリオ”になっていないといけないのです。

1−2.目標設定に必要なキャリアビジョンとスタンス

では、プロジェクト内の役割以外にどのようなことを、目標に設定すれば良いのでしょうか。

それには他の職種と同じく、「3年後・5年後のなりたい自分」イメージを設定することが大切です。キャリアビジョンとはまさに「3年後、5年後にどのようなエンジニアになっていたいか」ということであり、これを設定するだけでエンジニア個人の成長力や最終的な成長余地が変わってくるのです。

次にスタンスですが、これはどのような姿勢で仕事や組織に向き合っていくかという、いわば「仕事に立ち向かう姿勢」とか「マインド」のようなもので、大きく言えば「人間力」のようなものです。エンジニアの方は、スタンスの目標を持たずに(=つまり自分の人間力を向上させずに)ありのままの自分で生きていく(=技術力だけを頼りに生きていく)という人が非常に多いです。スタンスを意識して変化させると、今まで取り組んでいた仕事から得られる知見や、見える景色が違ってくることに是非気付いて頂きたいと思います。

キャリアビジョンとスタンスを目標に入れるだけで、あなたの目標設定は見違えるものになるでしょう。続いて、その具体的な内容を考察していきたいと思います。

2.キャリアビジョンの描き方と目標設定

さて、3年後・5年後に自分がどうなっていたいかというテーマは、日頃から意識しないと曖昧なまま放置しがちです。ここを具体的にしていかないと、本当は今どんな努力をすべきなのかが見えてきません。

しかし数年後の自分が目指すべきリアルな姿というのは、ネット上で検索してもなかなか具体的なモデルが示されません。メディアや伝聞などを通して知った他のエンジニアの例を持ってくるのでも良いですが、やはり理想のパターンは、今の職場に自分が目指すべき先輩を見つけて暫定的な目標とすることです。

「こんな風になれたらいいな」的な憧れでしかないその先輩エンジニア像を、多くの項目に分けて可能な限り列挙してみます。その人が具体的にどんな技術を持っており、どんな人なのか。何ができて何ができず、何に強く何に弱いのか。どんどん書き出していきます。

そしてその全ての項目に関して、「現状の自分」を書き出します。将来なりたい自分と現状の自分との間には、必ず多くのギャップがあります。それを3年間(もしくは5年間)で全て手に入れるとしたら、最初の半年は何をどこまでやればいいのかというロードマップを作成するわけです。全項目を少しずつ進める手もありますし、1項目ずつ完璧に潰していく発想もあります。やり方は、みなさんのやりやすいスタイルで結構です。

目先の現場で起こっている業務上の目標に並行して、この3年後に向けてのギャップを埋める具体的目標を掲げることが、後々の自分のキャリアを希望通りに実現するための最低条件です。なんとなく「3年後までに、自分はこうなれたら良いな」と思っていても日常はほとんど変わりませんが、分解して半年以内に何をするかを紙に落とし込めば、意識だけでなく日常の行動が大なり小なり変わります。

この「行動が変わる」ことこそが、キャリアビジョンを実現するにあたり重要です。目標を立てる際には「その目標で日常の行動が変わるか否か」を自問しながら設定しましょう。3年後までに何となく目指すだけでは日常の行動は変わらないものですが、半年以内の短期スパンで明確に目標を立てると、行動を変えざるを得なくなります。3年スパンで曖昧に捉えたままだと、3年もあるので何でもできそうな気になり「いつかやればいい」になってしまいますが、半年以内に期限を縛ることで出来ることと出来ないことが明確になります。その半年を6回繰り返せば3年ですし、10回繰り返せば5年になります。そう考えることで半年という期間の重要性(貴重性)も肌で感じられますし、日常の仕事への取り組み方をどんどん変えていかざるを得なくなるのです。

2−1.マネジメント志向とスペシャリスト志向

あなたはマネジメント志向?スペシャリスト志向?

ITの業界は、スペシャリスト志向の方が多い業界です。王道はプロジェクトマネジャー(PM)を目指して上流工程に向けて上っていくマネジメント志向ですが、最後まで自分は手を動かすエンジニアとして現場にいたいと言ってスペシャリストを志向する人も相当数います。

自分はどちらの方が向いているか(向き不向きが分からなければどちらが好きかくらいの判断基準でも良い)、しっかり志向を持ちましょう。ここで気をつけなければならないのは、極端に偏らせないこと。マネジメント志向だから技術力が弱くてもいい、逆にスペシャリスト志向だからマネジメント力はなくてもいいということでは断じてない、ということです。重要なのは、基本スキルと専門スキルのバランスなのです。そのバランスが上手に取れているビジネスパーソンこそ現場ニーズの高い人材であり、そこを目指すべきです。

2−2.基本スキルと専門スキルのバランス

志向によってスキルの割合は違う!

次に、エンジニアのスキルについて整理してみましょう。まず、基本スキルと専門スキルに分けてみます。

専門スキルとは、ITの専門知識や専門技術、それらに伴う関連知識や関連技術まで含んだテクニカルスキル全般です。

一方で基本スキルとは、対「課題」や対「人」と言ったビジネススキル全般のことを指します。対「課題」であれば、計画立案や分析洞察、企画構想や持続力などであり、対「人」であれば文書表現や信頼構築、口頭のコミュニケーションやプレゼンテーション、影響力や統率力など、後天的に習得可能であるスキルであって「エンジニアとしてのテクニカル以外」の全般と考えてください。

この基本スキルと専門スキルが必要とされるバランスが、マネジメント志向とスペシャリスト志向で逆になる感じです。どこにも正解のないものですが、マネジメント志向なら64、スペシャリスト志向なら46というイメージかなと思います。

2−3.目標となる実在のエンジニアを探そう

これはエンジニアに限ったことではありませんが、3年後・5年後の自分を考えるにあたりポピュラーであり効果的な方法が、限りなく自分の理想像に近い実在の人物を見つけて真似をするという方法です。

自分がマネジメント志向かスペシャリスト志向かに関わらず、必ずこんな感じの人になりたいという人は身近にいるはずです。細部までこだわってしまうと完璧に自分の理想像となるエンジニアは見つからないかも知れませんが、その人に少しだけ自分なりの良さや好みを加えればほぼ理想像に近いなと思えるくらいの人はいるでしょう。その人でいいのです。そしてその人の持つ、基本スキルと専門スキルを徹底的に分解していきましょう。普段そういう目で見ていないので、いざ分解してみると多岐にわたって様々なスキルや特徴があることに気づくはずです。その全てを目標に組みこまなくてもいいので、まずは思いつく限り書き出してみることをお薦めします。その横に、現在の自分をできるだけ客観的に書いていきます。

最後に、その列挙された多数の項目の中から、自分がエンジニアとして絶対に身につけたいものを抽出したり優先順位をつけたりして、3年間なり5年間なりで身につけるものを確定させます。そしてその習得を「半年ごと」に落とし込んでみます。落とし込んでみると、3年でやりたかったことが実は5年掛かるなと思うかも知れませんし、逆に5年掛かると思っていたものが3年で出来そうだとなるかも知れません。この作業そのものが、自分の現状を再認識することにもなり、「理想とする自分」と「現在の自分」のギャップを定量的に可視化するということにもなります。成長を重ね、自分の理想とするエンジニアになっていくのに欠かせない作業なのです。

3.スタンスの考え方と目標設定

目標となる実在のエンジニア像を丁寧に分解していくと、自分との差が専門スキル(テクニカルスキル)や基本スキルだけでなく、人柄とか性格も優れて見えるのではないでしょうか?

専門スキルと基本スキルがバランスよく優れる人というのは、たいていの場合、そう見えるはずです。そして多くの人が、「人柄や性格は直せない」と諦めてしまいがちなのです。エンジニアの方は、特にその傾向が強いように思われます。

その背景には、エンジニアは専門スキルだけでもある程度食べていけるという事実があるからですが、ここを諦めてしまうと自分の成長が止まります。確かに人柄だの性格だのは一朝一夕では改善できませんし、目標として設定しにくいです。そこで大事になってくるのが、スタンスという要素です。

3−1.スタンスとは

スタンスとは「仕事に立ち向かう姿勢」のことです。主体性があるか否か、チャレンジ精神にあふれているか、ポジティブ思考でいられるかなど、一見人柄や性格にまつわることに見えますので、ついつい根本的に改善するのが難しいと思ってしまいがちです。

ここで重要なのは、スタンスはあくまで「仕事上の性格」で、能力ではなくマインドに近いものだということです。根本の性格や人柄は変えにくいし、持って生まれたポテンシャルも多大に影響しますが、スタンスなら変えようと思えば後天的に変えられます。このスタンスについての目標を持つことが、実は非常に重要な視点なのです。

私は昔から何度も異業種への転職を繰り返してきたせいで、累計数千人のビジネスパーソンを見てきました。多くは部下として指導の対象になった人たちです。私は人を育てるポイントとして、本人のスタンスを少しずつでも変えさせることをポリシーに、業務に取り組んできました。ポテンシャルはありそうなのに、それを活かせず成果を出せない人に共通なのが、スタンスの悪さです。5年前にITの世界に入り多くのエンジニアと触れ合うにつけ、特にエンジニアという職種の人たちはスタンスがもったいない人が多く、スタンスさえ変えれば大きく伸びるのにと感じることが日常シーンで多々あります。

ですので、目標とする実在のエンジニアを分解する際には、基本スキル・専門スキルのほかにスタンス、つまり仕事に対する姿勢をよく分解してみることが大事です。それと自分を見比べてみるのです。そこには必ず隔たりがあり、よく考えると性格云々関係なく、やろうと思えばすぐに実行できる項目が多いものなのです。

3−2.ブランディングが成否を分ける

ブランディング

分かりやすい初歩的な例を、見てみましょう。

ある作業を、AさんとBさんに同時に頼んだと想定します。その作業は彼らにとって難易度がやや高く、かつ他人の失策のせいで回ってきた尻ぬぐいのような作業です。Aさんはあからさまに嫌な顔をするので、こちらが(上司であるにも関わらず)腰を低くして頼み方や言葉を丁寧に選んでも「私のスキルではそこまで出来ない」と渋り、いや、出来るところまででも良いのでやってくれないかと言ったらようやく仕方なさそうに受けてくれました。

一方のBさんは、こちらが拍子抜けするほど快く二つ返事で受けてくれました。AさんとBさんのこの作業に掛かる工数は同じです。どちらが得をしているか、という簡単な話です。エンジニアには自分の保身というか保険的な意味でAさん的なスタンスを取る人が非常に多いのです。もし仮に本当にスキル不足が不安ならば、Bさん的スタンスでいったん受けたうえで、追ってすぐに「詳細に見てみると一部で私のスキルでは足りない箇所がありますが、その部分はどうしましょうか?」と尋ねれば良いのです。

このスタンスの違いが、実は二人の評価を大きく分けます。同等のスキルであれば、Bさんの圧勝です。

実際にもっているスキルはBさんの方が劣っていたとしても、スタンスの違いでBさんが高い評価を受けることも多々あります。日常のスタンスの積み重ねが個人のブランディングとなっていき、そのブランディングの良い人にこそ、スキルアップに繋がる良い仕事が回ってくるのです。これが世の中のメカニズムです。3年後・5年後に、AさんとBさんが同じレイヤーで仕事をしている可能性は極めて低いと言えます。スタンスを変えれば、依頼される仕事そのものが変化してくるので、自ずと成果が変わっていくのです。

これまでスタンスに関する目標設定をしたことがない人は、次の目標設定からはスタンスの改善目標を入れてみましょう。半年後に、自分の評価が大きく変わり始めていることに驚くかも知れません。

4.エンジニアの具体的な目標設定例

では、具体的にエンジニアの目標設定例を見ていきましょう。目標を立てる内容は自分のスキルのフェーズによって変わります。今回はロースキルとミドルスキルの2パターンに絞って目標設定例を紹介します。

また、Excelで『目標設定テンプレート』を作成しました。本記事で紹介した目標設定のプロセスを直感的に実践できるようまとめています。以下より紹介する目標設定例もこの目標設定テンプレートをベースに作成しています。ぜひ今後の目標設定にご活用ください。

それでは2つの目標設定例を見ていきましょう。

4−1.ロースキルエンジニアの場合

ここではロースキルエンジニアの目標設定例を紹介します。

山田太郎さん 23歳 インフラエンジニア

新卒でIT企業に入社し、NW・インフラの監視要員として1年経過。何をやれば評価が上がるのか、先輩を見ていてもよく分からず、そもそもずっと監視でもいいやみたいな人が多い。ただ、一人だけ若手28歳で運用チームのリーダーをやっているAさんだけは、あんな風になりたいなと思える人。Aさんとは根本的な性格も違うし、なれないよな。という日常。上司からは目標は普通でいいよ、事故なく納期を守ってミスなく、で。と言われている。

4−2.ミドルスキルエンジニアの場合

ここではミドルスキルエンジニアの目標設定例を紹介します。

鈴木花子さん 29歳 システムエンジニア

新卒で自社開発系のIT企業に入社し、テストを中心にシステム改修を経験。もっと新規開発を経験したいが、自社では適正な評価が無く努力してもスキルアップ出来ない為25歳で転職。アウトソーサー企業に転職後は、開発案件に参画している。現在はJavaのプログラミング、一部基本設計を担当する。今後は更に上流工程を極め、要件定義を経験し、将来的にはPMになりたいと考えている。会社が2年前に新たな人事評価制度を導入し、目標設定はしているが、思うようにフェーズアップしていけずに悩んでいる。

ミドルスキルの目標例

上記を参考に『目標設定テンプレート』を活用・実践してみてください。

5.まとめ

  • 3年後もしくは5年後のキャリアビジョンを見定める
  • マネジメント志向かスペシャリスト志向かを見極める
  • 理想像に近いエンジニアを見つける
  • そのエンジニアを基本スキル・専門スキル・スタンスで分解し列挙する
  • 現状の自分の基本スキル・専門スキル・スタンスを並べて書く
  • 半年ごとに具体的にどのギャップを埋めていくか決める
  • 半年の目標において、日常の行動や努力量が変わるような目標設定にする

以上のことから分かるように、エンジニアの目標設定には3年後もしくは5年後のキャリアビジョンが必要であり、自分がマネジメント志向かスペシャリスト志向かを見定め、いずれの志向の場合にも目標とする実在のエンジニアを見つけることが欠かせません。

そして目標とするエンジニアの、基本スキル、専門スキル、スタンスをよく分解し、自分とのギャップを測り、それを埋めてゆくための半年ごとの具体的な目標を定めることで自分の日常の努力量と言動を変えていくのです。

オーソドックスな着想ではありますが、それが自身の夢を叶える最適な方法と言えるのです。ぜひ、次の目標設定に活かしてみてください。そして皆さんの目標設定が改善され、日頃取り組まれている業務がより楽しく意義深いものになり、確信的に自己成長できるようになって頂きたいのです。そうした結果、IT業界に素敵なエンジニアがどんどん増えていくことを心から祈っています。